「ドン・トマージ」── シチリアワインを次世代につなぐ、伝統と革新と、しなやかさと

 南イタリア・シチリアのワイナリー「ドン・トマージ」によるプレゼンテーションディナーが、日本初のプロフェッショナルイタリアンソムリエである林茂氏が率いるソロイタリアによって開催された。創業者でCEOのジュゼッペ・テッラージ氏が来日し、シチリアのテロワールを宿したワインと天ぷらを中心とした日本料理によるペアリングが2026年10月6日、神田明神下みやびを会場に披露された。

 

サン・チピレッロの丘、ドン・トマージの歴史とテロワール

 シチリア島パレルモ近郊、モンレアールのサン・チピレッロ(コントラダ・ドン・トッマーゾ)。その豊かな自然に抱かれた丘陵地に、ドン・トマージの畑は広がる。今年の収穫は8月10日から始まった。

 2004年にジュゼッペ・テッラージが設立した同ワイナリー。この地との深く強固な絆から生まれたワイン造りは、シチリアの土着品種のポテンシャルを引き出すことに注力している。標高約400メートルに位置する畑は、昼夜の大きな寒暖差と地中海の豊かな日差しに恵まれ、ブドウに優れたアロマと清涼感をもたらす。伝統への敬意とモダンな醸造技術の融合。それがドン・トマージの揺るぎないアイデンティティだ。

 

他社とは一線を画す、独自の差別化要素

 シチリアワインの多様性を示す中で、ドン・トマージが異彩を放つ理由は明確だ。土着品種であるグリッロやカタラット、ネロ ダーヴォラに真摯に向き合う一方で、国際品種であるシャルドネやカベルネ ソーヴィニヨンとの大胆かつ緻密なブレンドアプローチを取り入れている点にある。

 伝統に縛られない自由な発想力と、シチリアのテロワールが持つ力強さが共存する味わい。それは、世界各国のワインシーンにおいて高い評価を獲得し続けている理由でもある。今回のイベントの目的は、まさにその品質と哲学を日本の市場へ真っ直ぐに届けるためのパートナーシップの構築だった。

伝統の日本料理とシチリアワインの調和、鮮烈なるペアリング

 神田明神下みやびが誇る、全国のから旬の素材をカラリと揚げた天ぷらをはじめとした日本料理。そこにドン・トマージの多彩な個性が重ね合わされた。

“エッセンシア” グリッロシチリア DOC(グリッロ100%)

瑞々しい柑橘のアロマと豊かなミネラル感。素材の持ち味を活かした白身魚や野菜の天ぷらの繊細な衣を心地よく引き立てる

スウェラックスサーモン、帆立

グリッロ & シャルドネ シチリア DOC(グリッロ 50%、シャルドネ50%)

エキゾチックな果実香とバニラのニュアンスが特徴。しっかりとしたコクと心地よいサピディティが、海老や貝類の豊かな旨味と絶妙な一体感を演出

秋刀魚の柚庵炭火焼き

カタラット・ルチード IGP テッレシチリアーネ(カタラット・ルチード 100%)

凛とした酸味とピュアな果実味。軽快な喉越しが、揚げ物の油分をすっきりと流し、次の一口へと誘う

海老、かぼちゃ、舞茸、牛蒡の天ぷら

ネロ ダーヴォラ & カベルネ ソーヴィニヨン IGP テッレシチリアーネ(ネロ ダーヴォラ 60~70%、カベルネ ソーヴィニヨン 30~40%)

深いルビーの色調と、芳醇な赤系果実やスパイスの複雑な香り。しっかりとした骨格とまろやかなタンニンが、天つゆのコクや素材の旨味と深い奥行きを生み出す

牛肉吸い

 

100年の歴史が紡ぐシチリアワインの新境地

 ワイナリーが何よりも大切にしているのは、シチリアという土地の個性を最も純粋に表現する「土着品種」の表現だ。「ドン・トマージ」は1世紀以上にわたる豊かな歴史を背景に持ちながら、20年前から本格的な自社醸造と商業化への挑戦を始めたファミリーワイナリー。そこには、伝統を守るだけの姿勢ではなく、情熱と緻密なこだわりを注ぎ込む造り手たちの哲学が息づいている。すでにジュゼッペの息子たち二人がしっかりと役割を分担し、親子3人で生み出されるワインには、シチリアの太陽と風、そして土地への深いリスペクトが映し出されている。

独自の革新的アプローチ
モスト段階でのバトナージュと市場に向けた柔軟なワイン造り

 このワイナリーの真骨頂とも言えるのが、醸造における独自のテクニックだ。一般的には発酵が完了した後のワインに対して行われることの多い澱引きやバトナージュだが、ここでは発酵前の「モスト(果汁)の段階でのバトナージュ」を採用している。これは若き醸造家のジャンヴィートとその兄、次世代のアイデアによるものだと父のジュゼッペは目を細めて語る。

 こうした独創的なアプローチにより、酸化を防ぎながらブドウ本来のピュアなアロマを最大限に引き出し、ワイン全体に複雑なストラクチャーと滑らかな口当たりを付与することに成功している。職人技とも言える丁寧なプロセスが、他にはない立体的な味わいをカタラットにもたらしているのだ。

 一方、IGT テッレシチリアーネからは、飲み手の志向に合わせた柔軟性が垣間見える。60〜70%のネロ・ダーヴォラに30〜40%のカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドし、新樽のバニラ香という分かりやすさを宿したワインは、主たる輸出先である米国を見据えたものだとジュゼッペCEOは語る。これは売り先の志向に合わせたマーケットイン型のものづくりを印象付ける。例えば、日本向けにはどんなワインに仕上げてくれるかといった議論の余地も期待できるだろう。

 

グラスの向こうに見えるシチリアの新しい風が、日本市場へ拓く扉

 土着品種と国際品種の融合、そして標高400メートルのテロワールからもたらされる、次世代のシチリアワイン。日本における新たなパートナー(輸入代理店)の開拓を見据え、飛躍を誓うドン・トマージの革新性は、シチリアワインの新しい選択肢として、遠からず日本の食卓に再登場するはずだ。

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