イタリアワインの品質と競争力を高めた「スーパータスカン」
マッツェイ社「コンチェルト」「シエピ」バーティカルテイスティングセミナー
6000年もの歴史を持つイタリアワインの進化は近代における法整備とも言われているが、ワイン法はワインの体系化の一方で、こう着という反作用をもたらしてきた。イタリア中部トスカーナ州のワイン「スーパータスカン」は、1963年に制定されたワイン法の規制にとらわれずに造られたワインの一つ。原産地呼称のもとでは「DOCG」「DOC」の下位概念「IGT」として、テーブルワインのように位置付けられることもいとわず、自由な発想で造られたワインはイタリアワインの品質と国際競争力を大いに高めた。
1435年から25代続くマッツェイ社は、スーパータスカンのレジェンドの一角を担うワイナリー。ここで育まれる2種類のワインを試飲するセミナーが昨年12月12日、林茂氏が代表を務めるソロイタリアによって開催。東京・青山のリストランテ アクアパッツァを会場に、マッツェイ社のエクスポートマネージャー、アンナ・パクレ氏がスーパータスカンの魅力を語った。
キアンティで最も素晴らしいセラー
14世紀からワイン生産とブドウ栽培の家系をつむぐマッツェイは家族経営のワイナリー。故ラポ・マッツェイの二人の息子、フィリッポとフランチェスコがCEOを務め、さらに25代目に当たる息子たちがすでにワイン造りに参画している。
現在は五つのワイナリーを運営しており、創業の地トスカーナでは、キアンティ クラッシコ エリアに「カステッロ ディ フォンテルートリ」を、1997年には同州マレンマに拠点を増やし「ベルグァルド」を、さらに2003年にはシチリア州ノートに「ジゾラ」を、06年にはキアンティ クラッシコエリアに「イルカッジョ イプスス」と拡張し、ヴェネト州ではプロセッコ「ヴィッラ マルチェッロ」も造っている。
“光輝く泉”を意味する「Fons Rutilant」を語源とするワイナリー「カステッロ ディ フォンテルートリ」は、醸造施設も最先端を行く。岩盤を掘り建設された施設はデキャンタ―誌で「キアンティで最も素晴らしいセラーのひとつ」と評され、65%が地下に沈むように設計された9500㎡の敷地は、温度変化の影響を受けにくい造りだ。
74あるマイクロ発酵槽で区画ごとにブドウを醸造でき、重力に逆らわないグラヴィティ フローを採用。熟成庫は、岩盤の壁を伝う湧水で温湿度が保たれる。
この日のセミナーでは、サンジョヴェーゼとカベルネソーヴィニヨンによるレジェンドワインの一つで“協奏曲”を意味する「コンチェルト」と、サンジョヴェーゼとメルローの一体化によるエレガンスを具現化した「シエピ」が披露された。
50年に及ぶサンジョヴェーゼ研究。36種類を栽培して一線を画す、個性と多様性
「コンチェルト」は1981年に誕生したワイン。トスカーナワインの転換点となる時代に誕生した最初の10のワインの一つだ。原産地呼称における区分では下位にあたるトスカーナIGTであるにもかかわらず、確固とした信念で独自の地位を築いたワインはサンジョヴェーゼ80%、カベルネ・ソーヴィニョン20%によるブレンド。心地よい酸を伴うカベルネがワインをエレガントにし、試飲した2015年、16年、21年は英国のワイン評価誌「ジェームスサックリング」で常に95ポイント以上を獲得している。
傑出した出来と評される2015年ヴィンテージさえもまだまだ熟成の期待を感じさせ、豊かな果実味やスパイスなどさまざまな顔を見せた。
「シエピ」はワイナリーの実験的な畑として使われてきたエリアで、2006年からは有機栽培に。ワインはサンジョヴェーゼとメルローを50%ずつのブレンド。魅惑的な果実味と複雑さを持つ、洗練されたワインだ。
カベルネ・ソーヴィニョンによる「コンチェルト」が安定的な風味を醸しているのに対して、試飲した2012年、17年、18年、21年の「シエピ」はヴィンテージごとの表情が豊かだ。特に難しかった年と言われる2017年は3割の減産を余儀なくされたが、このヴィンテージからはマッツェイの技術の蓄積を感じることができる。また21年は香りや味わいの総量や骨格の太さが感じられ、一方でこのワイン誕生20周年の節目となった12年ヴィンテージはデリケートに磨かれたようなタンニンと、腐葉土やキノコ、ドライオレンジの香りを含み、ジビエとの相性も期待させた。
これら二つのブランドはともにワイナリー「カステッロ ディ フォンテルートリ」のもとで造られる。所有する650haのうち110haがブドウ畑に割かれ、テロワールの異なる七つのエリアが114の区画に細分化されて栽培されている。
基盤となるサンジョヴェーゼの研究は50年に及び、これが品質の下支えになっているのは言うまでもない。サンジョヴェーゼだけでも36種類を栽培し、そのうち18の区画では畑の個性が強まり、よりテロワールを表した複雑なワイン造りができる18のマサルセレクションを採用しているのが他のワイナリーと一線を画す、多様性と個性だ。
14世紀にはマッツェイが公文書で初めて「キアンティのワイン」という文言を使用した記録も残っている、キアンティの歴史とともに歩んできたワイナリー。テロワールと伝統を示すキアンティ クラッシコの荘厳さとともに、信念と引き換えに格付けを捨て、品質と評価を勝ち取ったスーパータスカンの勇壮さは、世界に向けたイタリアの誇りと言い換えることもできるだろう。
主催 マッツェイ社 カステッロ ディ フォンテルートリ
運営 ソロイタリア
協力 ファインズ(株)