「キアンティ クラッシコ リゼルヴァ 2009」熟成が醸し出す陰影

 東京にて2月に、キアンティ クラッシコ アンバサダーでイタリアワインジャーナリストの宮嶋勲氏が講師となり「キアンティ クラッシコ リゼルヴァ2009 熟成が醸し出す陰影」と題するセミナーを開催。13年の時を経て気品と深みを増したキアンティ クラッシコの魅力を堪能した。(text: Yoshimi Ban)

キアンティ クラッシコ DOCGエリアの立体地図

キアンティ・クラッシコは歴史ある特別地域

 まずは、キアンティ クラッシコとは何か?単なるキアンティとはどう違うの? またリゼルヴァが表記されると何が違う? などの基礎知識をおさらいしてみよう。
 キアンティ クラッシコは、第2次世界大戦後にキアンティ地域の中から独立したワイン産地で、総面積は7万ha。この地域は地図で見ると、1716年にトスカーナ大公国のコジモ3世がキアンティワインをまがい物から守るために線引きした生産地とほぼ同じ。クラッシコの名のごとく古くからの歴史がある特別地域といえる。
 単なるキアンティより、アルコール度や法廷熟成期間などの生産規定がより厳しく、その中でもリゼルヴァは2年以上熟成して出荷することが決められる長期熟成スタイルのワイン。なお、キアンティ クラシコは3つの格付けに分かれ、下から、アンナータ、リゼルヴァ、グランセレツィオーネとなっている。

熟成によって陰影が生まれよりエレガントに、テロワールを反映

 今回のセミナーでは、キアンティ クラッシコ リゼルヴァ2009の6生産者の四つの村(コムーネ)のワインを比較試飲。リモートで出演した同会長のジョヴァンニ・サルヴァトーレさんは、

「キアンティ クラッシコ リゼルヴァは12年から15年を経ると、味わいはピークに達し、香りはより開いて官能的に、味わいも深くなり陰影が生まれ、気品や優雅さを醸し出す。さらにそのワインが生まれた地区の個性、つまりはテロワールが際立って反映される」と語った。

セミナーにリモート出席したジョヴァンニ・サルヴァトーレ会長

 さらに講師の宮嶋氏は「現在キアンティ クラッシコ地域には11の村コムーネがあるが、土壌・気候・地形・風当り・日当たりなどに違いがある。熟成するとこうした各コムーネの個性がより明確になり、それがユニークさとしてより高品質なワインであることの証明となる。今後キアンティ クラッシコでは各村の表記を明確にすることも視野に入れている。近年では若い生産者が集まって各村で協会を作り、テロワールをより豊かに表現したよりワイン造りに情熱を注いでいる。彼らは特に環境への意識が高く、現在52%の畑が有機栽培を行っている」と現状を伝えた。

 ちなみに、キアンティ クラッシコ地域の約75%は丘陵地帯に広がる森で、多くの畑は森の中に点在しているのだそう。そのため、森に守られて害虫や病害の被害が少なく、夏でも冷涼で昼夜の寒暖の差が大きい。つまり、近年の地球温暖化の弊害を受けず、ブドウは過熟にならず健全に育ち、生まれえるワインは豊かな酸と果実味を兼ね備えるため、長期熟成能力の優れたワインが生まれるそうだ。

2009年はターニングポイントとなった年

 なお、2009年は夏はよく晴れてブドウが完璧に成熟し、酸も豊かに残ったグレートヴィンテージだそう。6種のワインはいずれも素晴らしく、各コムーネの個性を明確に表現。熟成によって深みと複雑性、エレガンス、気品が醸し出され、同時にバランスの高さも感じた。
 また、2009年以降はキアンティ・クラッシコのワインスタイルが変化していくターニングポイントともいえる年だそう。それ以前の1980年~90年代は、醸造においてマセラシオンを長く行い抽出を強くし、樽のニュアンスもしっかり出したスタイルが多かった。しかし2010年前後からは造りこみすぎず、樽も使いすぎずセメントタンクなどに変え、ブドウの個性や果実感を大切にする醸造に移行していったという。

当日試飲ワイン&コムーネの個性

①イ・ファブリ キアンティ クラッシコ リゼルヴァ 2009

 畑は「ラモーレ」の村に位置し、ここは標高が高く段々畑が続く地域のため、一時期耕作放棄されていた時期もあった。しかし逆にそれが幸いし、樹齢50年以上の古木が残り近年注目されている。赤い果実感と熟成によるハーブのトーンが現れ、細身だがしなやかでエレガント。

②フォントディ キアンティ クラッシコ リゼルヴァ ヴィーニャ・デル・ソルボ 2009

 フォントディはサンジョヴェーゼにこだわり、このブドウ100%でその土地の個性を最大限に引き出そうとした先駆者。黄金大地といわれる「パンツァーノ・イン・キアンティ」の樹齢50年の単一畑のワイン。パンツァーノ・イン・キアンティは標高400~500mの小高い丘にあり、昼夜の温度差が大きくボディがしっかりある断固とした、酸が豊かなワインを生む特徴がある。

③ポッジェリーノ キアンティ クラッシコ リゼルヴァ ブジャーラ 2009

「ラッダ・イン・キアンティ」の村にあり、ここは85%が森のため夜間は冷涼、ガレストロの水はけのよい土壌のため、酸とミネラル感が豊かなワインを生む特徴がある。このワインもミネラル感がい豊富、若い時の面影を美しく保ったまま熟成しており、タンニンが円やかになってエレガントながら、いまだ若々しく瑞々しい。

④リエツィーネ キアンティ クラッシコ リゼルヴァ 2009

「ガイオーレ・イン・キアンティ」は標高500mの巨大な砂岩が転がる土壌によって、フレッシュな酸が特徴のワインを生む。熟成によってミネラル感がうまみ変わって深さを増し、樽由来のニュアンスも優雅。瑞々しい赤い果実、アールグレーやバニラ、ハーブ香り。

⑤カステッロ・ディ・モンサント キアンティ クラッシコ リゼルヴァ 2009

 キアンティ・クラッシコ地区の中でも一番西の「ポッジボンシ」にあり、山脈で閉じられていないテロワールのため、風通しがよく温暖。そのためしっかりと完熟したブドウが育ち、タンニンも豊かで力強いワインが生まれる特徴がある。特にこの生産者はリッチで長期熟成能力が高いワインを造る。まだまだ堅固で、あと10年以上可能な熟成能力の高さと凝縮感がある。

⑥ポモーナ キアンティ クラッシコ リゼルヴァ 2009

 南寄りの「カステリーナ・イン・キアンティ」にあり、森林が多く泥灰土の土壌が特徴。そのため一番果実感が強く濃厚。2009年はこの生産者がビオディナミに転換した年で、畑の中でも最も樹齢が高い区画から造られいる。そのためワインはより凝縮感が高く華やかさがある。

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