品種も同じ、製法も一緒。メガヒットの中にある差別化と“プロセッコの核心”
収穫期のワイナリーを訪問
2018年の生産量はDOCだけでも4億6400万本。2019年も引き続き過去最高を更新することが確実視されている北イタリアのスパークリングワイン、プロセッコ。山岳地帯のDOCGエリアと合わせると6億本に及び、今年の収穫分から認定される見込みのロゼを合わせると確実に6億本を超えるという“メガ・プロダクション・エリア”だ。それは「世界で最も多くのファンを持つスパークリングワイン」とも言い換えられる。
400に及ぶ生産者がいずれもほぼ同じブドウ品種を使い、同じプロセスでワインを造る。この地のワインの魅力がどこにあり、それぞれの差別化はどのように施されているのかを現地レポートする。
その人気は英国やドイツ、米国、 フランスにも
プロセッコは昨年、10年という節目を迎えた。この期間で4倍に成長した市場を見るだけでも、急成長を裏付けるには充分だと言える。かつてのプロセッコ生産地が「コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG」に昇格し、「アーゾロ・プロセッコ・スペリオーレDOCG」とともに「プロセッコDOC」が誕生したのが2009年。さらにさかのぼれば、その発展はタンク内二次発酵と共にある。1800年代に確立された二次発酵の技術は1876年にイタリアで初めて設立されたコネリアーノ醸造学校で、プロセッコ地域におけるスパークリングワイン生産に適したブドウの特性評価とともに進化した。1895年にピエモンテ州アスティでフェデリコ・マルティノッティが発明し、特許を取得した今日のタンク内二次発酵も後押ししたと言ってよいだろう。
そのプロセッコが今日、英国やドイツ、米国だけでなくシャンパーニュを生産するフランスにも輸出され、消費量を増やしている。特にEU圏内ではレストランのワインリストでも、デイリーユースのスパークリングワインとしてカテゴライズされている様子が多く見られるほか、カクテルベースとしてもポジションを確立している。ひと言にプロセッコと言ってもヴェネト州とフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州にまたがる9県で育まれ、前述の三つの原産地呼称がどのように異なる個性を発揮しているのかにも着目しておきたい。それは土地の個性であり、味わいにも明確に表現されている。
丘のプロセッコと平地のプロセッコ、さらに異なる川沿いのプロセッコも
プロセッコを象徴するエリアの一つと言えば「コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコ・スペリオーレDOCG」を挙げて間違いない。コネリアーノから西におよそ25km、ヴァルドッビアデネに続く丘陵地は昨年、ユネスコ世界文化遺産に認定され、観光名所としてもさらに期待がかかる地域だ。1ha当たりの植樹率や収穫量も厳格に規定されているばかりでなく、急こう配の地形ゆえに手摘みでの収穫も余儀なくされる過酷な土地だ。ここで取れるブドウはアロマがより豊かで鮮明、ワインの味わいには青々とした野草のようなテイストやアフターの苦みなど、特徴的な複雑味をもたらす。43カ所ある特別呼称の「リーヴェ」(Rive)や、わずか107haを細分化して栽培農家やワイナリーが分かち合う「スペリオーレ ディ カルティッツェ」は最上級畑として君臨する。
味わいの深みは存分に伝わる一方で、それが日本での価格に反映された途端に扱いづらくなってしまうという困難な現実もある。特にカルティッツェの価格は上質なシャンパーニュに匹敵し、そしてこの特性として残糖量の多い「ドライ」タイプでリリースされているものが多いのも今日の日本人の志向には合わせにくい。だが近年では、カルティッツェの「ブリュット」も造られ始めており、辛口のカルティッツェは試飲する機会があればぜひおすすめしたい逸品だ。
もう一つのDOCG「アーゾロ・プロセッコ・スペリオーレDOCG」は日本ではあまり出回らないプロセッコ。ヴァルドッビアデネからピアーヴェ川を挟んで南西に10数kmのところにあり、生産量は1000万本程度と極めて少ない。ほとんどが国内や隣国で消費されるため輸出に熱心でないことも確かだ。この地域のプロセッコは総じて蜜を含んだリンゴのような香りが豊かで味わい深いのが特徴だ。
最大の生産量を誇り、今日のプロセッコの普及を支えているのは紛れもなく「プロセッコDOC」だ。ヴェネト州におけるプロセッコの中心地トレヴィーゾから、プロセッコのルーツたる土地であるフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州のトリエステまで、DOCGを除く全域のプロセッコを担う。丘陵地のDOCGに対比して“平地のプロセッコ”と呼ぶこともあるが、同じ平地でも異なる個性を持つ。広範なDOCエリアの中でもトレヴィーゾ県やトリエステ県内で栽培・醸造されるものは特別呼称としてプロセッコDOCトレヴィーゾ、あるいはトリエステと表記することができる。そして平地のプロセッコの中でも、ピアーヴェ川流域の畑は独特のミネラル感を有する。フレッシュでフルーティーなワイン造りが施されるのも特徴的で、親しみやすく、扱いやすい。そのまま飲むも良し、カクテルにするも良しのオールラウンダーでもあり、その一方で生産者の個性がDOCGよりもさらに如実に表れる。活発なマーケティング活動も奏功して世界各国での消費量を伸ばしているのもDOCによるところが大きく、今後もさらに拡大が期待されている存在だ。
さらにプロセッコは、地域特性と掛け合わせるように、生産者による特徴も大きく反映される。伝統的であるか、革新的であるか。その革新はどこに向いているのか。さらに、規模の大小による違いも市場におけるプレゼンスに大きく作用している。昨年の収穫期に訪ねた10カ所のワイナリーはまさに、規模も地域も色とりどり。次回、その特徴的なワイナリーを紹介しながら、プロセッコを細分化していく。(続く)