「和食にはSoave」
林茂氏が北イタリア・ソアーヴェの魅力を伝える
ひと言で和食と言っても多種多様、同様にワインも産地で一括りにできない楽しみがある。イタリア北部、ヴェネト州ヴェローナで造られるソアーヴェワインもその代表的な一つだ。『和食で愉しむイタリアワイン』(万来舎)をはじめ数多くのイタリア関連の著書がある林茂氏が代表を務める㈲ソロイタリアは昨年末、ソアーヴェワインと日本料理の相性の良さを知らしめるディナーを開催した。
イタリアワイン法制定の1968年から認定されているソアーヴェDOC
ソアーヴェは、ヴェネツィアから西へ90㎞、ヴェローナからは東へ30㎞のところにある古城の街。中心部は城壁に囲まれ、その門扉の跡が残る箇所にはワインのボトルやかつての醸造器具が展示されている、ワインの街だ。ワイン造りを通した環境保全にも積極的な地域で、2018年には国連食糧農業機関による世界農業遺産として認定されている。これは世界で53番目、イタリアで初めてのブドウ栽培に関する農業遺産である。これによりソアーヴェでは、この地の特徴であり、湿気を避けるために地面から高めに施したブドウの仕立て方「ペルゴラ・ヴェロネーゼ」や、乾燥した低い壁によって造られた保水システムと段々畑、レチョート・ディ・ソアーヴェ、火山性および石灰質土壌でブドウ栽培を継続する3000 軒の栽培農家の協同組合組織などが保護されることになった。
ガルガーネガ種のブドウを70%以上使用し、トレッビアーノ・ディ・ソアーヴェもしくはシャルドネを30%以下、ほかアロマティックでない認定白ブドウを5%以下の割合で生産される白ワインがソアーヴェワインだ。イタリアにおけるワイン法が制定された1968年からDOCに認定されているのがソアーヴェDOC、その中で古くからワイン造りが行なわれていたソアーヴェ クラッシコDOCは、同じソアーヴェでも似て非なる存在とも言われる。2001年にDOCGに認定されたソアーヴェ スペリオーレDOCGは地域の特徴をもっとも表わしているワインで、市場に出る前に最低2年の熟成が必要。アルコール度数は12.5%以上であることが求められている。さらに1998年にDOCG認定されたデザートワインのレチョート・ディ・ソアーヴェDOCGと、ソアーヴェには四つの顔がある。
会席料理に寄り添うソアーヴェ7種
ソアーヴェワインと和食の親和性を再確認するディナーは、東京・外神田の「神田明神下みやび」で開催。江戸城内の料理を司った「御臺所御賄方」の武家屋敷があったことから、ここは「神田明神下御臺所町」と呼ばれていたという。この日はボラの白子の茶わん蒸しから始まり、八寸、お凌ぎとして名古屋コーチン手羽が続き、甘鯛の松笠揚げなど同店の看板ともいえる天ぷら、ばらちらしに納まる会席料理が供され、一つの地域の中でモザイク模様のように個性豊かなソアーヴェワイン7種が寄り添った。
豊かなミネラルを感じる白ワインのイメージがあるソアーヴェにも、スパークリングワインが存在する。レ・バッティステッレはソアーヴェ クラッシコの中心地に拠点を置くワイナリー。その「セッテンブリーノ ソアーヴェ スプマンテDOC ミッレジマート 2021」はガルガーネガを100%使用し、ステンレスタンクで60日間の二次発酵を施したものだ。青リンゴやハーブの爽快な香りに、火山性土壌由来のミネラル、柔らかな酸味が心地良く、会食の優れたスターターと言える。
カンティーナ ディ ソアーヴェは1898年に設立された同地区最大手の協同組合の一つ。2200に及ぶ栽培農家によって構成されており、ブドウ畑は6000haにのぼる。「デューカ デル フラッシノ ソアーヴェ クラッシコDOC 2020」は、火山性粘土質と石の混ざった土壌で育てたブドウを手摘みした高品質のソアーヴェ・クラッシコ。リンゴを中心とした実の白い果実の繊細なアロマが印象的だ。
ジャンニ テッサーリはこの日供された中で最も北部のワイナリー。現オーナーの醸造家、ジャンニ・テッサーリが創業者のマルカートファミリーから2013年にワイナリーを譲り受け、ロンカ村を中心に55haの畑を所有する。「ソアーヴェDOC 2021」はガルガーネガにトレッビアーノ ディ ソアーヴェを10%ブレンド。標高250~300mの玄武岩土壌の畑から採れるブドウもフレッシュさとはっきりとした輪郭のある味わいだ。「スカレッテ ソアーヴェ クラッシコDOC 2021」は単一畑「テンダ」と名付けた単一畑によるワイン。しっかりとした麦わら色で白い花と白い果肉の果実のアロマが素晴らしく、石灰質土壌のテロワールが鮮やかに表現されている。
カンティーナ ディ モンテフォルテは、80のワインメーカーによって1952年に設立された協同醸造所。栽培面積は1300haに及び、ガルガーネガ100%による「ヴィカリオ ソアーヴェ クラッシコDOC 2021」は焼き鳥から天ぷらに向かっていくコース料理の中盤にほど良いボディの厚みと余韻で楽しませた。
テヌータ サンアントニオはヴェネト州の生産者協同組合の創立者であったアントニオ・カスタニェーディが現在のワイナリーを購入した1989年に始まる。5年間は研究に費やし、販売は97年から、99年以降は新しい醸造所を落成している。「モンテ チェリアーニ ソアーヴェDOC 2019」はステンレスタンクと瓶で6カ月以上の熟成を施し、熟したパイナップルやパッションフルーツ、洋ナシなど厚みのある果実味は和食の主菜に見事に呼応する。
デザートに新潟産の洋梨ル・レクチェとバニラのジェラートが提供されれば、「ネッターレ・ディ・バッコ レチョート ディ ソアーヴェDOCG 2019」が並んで食事のフィナーレを飾った。ワイナリーのモンテトンドはこの地のクリュを中心持つ25haはすべて自社畑。手作業による収穫など伝統的な手法と最新技術の融合により、年間で20万本を生産するまでに成長した。
ソアーヴェの個性はその土壌と歴史が雄弁に物語っている。土壌は四つないし五つに大別され、同じソアーヴェとは思えないほどのバラエティを見せる。DOC、DOCGのエリアとともに土壌を把握するほど会話が広がり、ワイナリーや畑の所在地を確認しながら楽しむほどに、さまざまな顔を見せるのがソアーヴェの楽しみの一つだ。
2023年もソアーヴェの夏がやって来る
会の冒頭には、2022年夏に行なわれたソアーヴェワイン保護協会主催、ソロイタリア運営によるレストランキャンペーンの報告が行なわれた。13社のワイナリーが参加したバイ・ザ・グラス キャンペーンは全国355の店舗が参加し、1万2000本に及ぶソアーヴェが消費された。パスタパスタ(福岡)、トリアンゴロ(大分)、カモシヤ(愛知)、キッチン・ビッション(京都)など、期間中に100本以上のソアーヴェワインを販売した31店が日本における「ソアーヴェ大使」に選ばれた。そればかりか、「ルミーノ・カリーノ」(愛媛)を筆頭に過去にソアーヴェワイン保護協会からの表彰、招待旅行を受けている店舗が、表彰対象外であるにもかかわらず積極的に参画していることも注目に値する。 レストランキャンペーンは、今夏も開催が予定されている。知れば知るほど好きになる、ソアーヴェワインの魅力に皆も触れてもらいたい。
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