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プロセッコの都トレヴィーゾとワイナリーが持つフィロソフィー
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2018年の生産量はDOCだけでも4億6400万本。2019年も引き続き過去最高を更新することが確実視されている北イタリアのスパークリングワイン、プロセッコ。山岳地帯のDOCGエリアと合わせると6億本に及ぼうかという“メガ・プロダクション・エリア”だ。「世界で最も多くのファンを持つスパークリングワイン」とも言い換えられる。
この地のワインの魅力がどこにあり、それぞれの差別化はどこにあるのかをレポートする第二回は、プロセッコの中心街トレヴィーゾと訪問したワイナリーを紹介する。
プロセッコの中心地トレヴィーゾは ティラミス発祥の地
イタリア北部ヴェネト州とフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州にまたがるプロセッコの生産地域。その中心部はヴェネト州トレヴィーゾだと言って良いだろう。プロセッコDOCワイン保護協会の本部があるこの街は、運河と水路が至る所に流れる水の都だ。
トレヴィーゾはティラミス発祥の地でもある。レストラン「レ・ベッケリエ」(Le Beccherie)はそのルーツとされており、ここでは伝統のメニューとともに、アレンジを施し“間違ったティラミス”を意味する「ティラミス ズバリアート」と名付けたメニューも人気だ。先進的なカクテルバーも存在する。「Cloakroom Cocktail Lab」はジン専門のバー「Gineria」も併設する、クリエイティブなカクテルを提供するスタンディングのバー。イタリアのワインやレストラン評価をする「ガンベロロッソ」による“偉大なカクテルバー”の10軒にも選ばれており、バーテンダーのマッティア・パヴァン氏はカクテルコンペティションへの出場やセミナーへの出講もする。トレヴィーゾはヴェネツィアのマルコ・ポーロ国際空港から車で30~40分程度、電車で1時間ほどの距離にあり、簡素な駅とコンパクトな街は過ごしやすい。市街地観光をしながらのワインツーリズムにも、ここを拠点とすると何かと便利だ。
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Le Contesse ブドウの特性を生かす一元発酵のアロマとフルーティーさ
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トレヴィーゾの中心街からピアーヴェ川を越えて北東に20kmほどのところにある「レ・コンテッセ」(URL=https://www.lecontesse.it)は日本でもなじみのあるワイナリーだ。1976年にロリス・ボノット氏が設立したファミリーワイナリー。息子のダビデ氏と妻のフランチェスカ氏がその哲学を受け継ぎながら、革新的な手法やアイデアで価値を高めている。
その特徴は、抜きん出たフルーティーさにある。収穫したブドウを圧搾したジュースはすぐさま劣化のない氷温で貯蔵し、生産計画に応じて発酵させるというもの。ベースワインを造らず、一般的に二次発酵と呼ばれるワインの中に泡を閉じ込め、溶け込ませるプロセスを初回の発酵で済ませる。彼らのすべてのワインに施される「シングルファーメンテーション」(一元発酵)は“プロセッコはフレッシュであるべき”という考えを見事に体現するシステムと言える。
グレーラ特有のアロマと甘み、酸味がバランス良くダイレクトに伝わる分かりやすさがある。実際、副材料を混ぜてカクテルにしても、プロセッコの香りと味わいがきちんと残る。日本で過去3回行なわれたプロセッコDOCレストランキャンペーンのうち2回、最優秀店が採用したのがレ・コンテッセのプロセッコDOCトレヴィーゾ エクストラドライだという実績にも、その優位性が表われている。
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Ca’ di Rajo 伝統の畑「ベルッセラ」の景観とすっきりした味わい
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コネリアーノの中心から南東に9㎞のところある「カ ディ ライオ」(URL=https://www.cadirajo.it)は、ワイナリーを中心に広がる自社畑が美しく、平地にあるがゆえの心地よさ感じさせる。第一次世界大戦の頃はオーストリア・ハンガリー帝国との戦地であり、その爪痕が色濃く残る一帯で、1931年に創業したチェッケット家の知見をもとに2005年に設立されたワイナリーは現在、シモーネ、アレッシオ、ファビオの三兄弟で運営されている。
ワイナリーに隣接する伝統的な畑「ベルッセラ」を見るだけでもここを訪れる価値がある。アーティストとのコラボレーションにも積極的だ。世界で活躍するイラストレーターの作品をラベルに用いたり、このベルッセラを会場にDJイベントを行なうなど、ワインを通じて人が集まり、コミュニケーションが生まれるという考えがワイン造り周辺の活動にも表われている。
300万ℓある総生産のうち140万ℓはタンク内二次発酵によるスプマンテで、その一部は一元発酵も採用している。プロセッコDOCエクストラドライはことのほかすっきりした味わい。辛口志向への対応や食事との親和性の良さが容易に想像できる。ブリュットやDOCGにロゼのスプマンテ、生産本数3000本の限定品「Iconema Tai DOC Piave」を筆頭にスティルワインも多岐にわたる。
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