海と山、風のワイン ── アブルッツォを知ればイタリアがより近くに感じられる
世界のロゼ隆盛を機に「チェラスオーロ」のPRにも注力
さかのぼること6月上旬、アブルッツォ州に本部を置くアブルッツォワイン保護協会はプロモーションイベント「アブルッツォワイン エクスペリエンス 2022」を開催。同国内外のワイン関係者を招聘し、4日間にわたるプログラムで欧州のほか北米、アジアに向けた当地のワインをPRした。
日本からの訪問団に提供されたのはキエーティの地下都市見学などの市街地探訪を含むウェルカムディナーやガラディナーによるアブルッツォ体験だ。「トラボッコ」と呼ばれるアブルッツォ州から南への海岸線に点在する“漁師小屋”で、これを改装した海上レストランでのディナーは現地の雰囲気が分かりやすく伝わり、また近年のワイン市場の動向を反映するようにロゼワイン「チェラスオーロ ダブルッツォ」を強くアピールしたガラディナーも、現地協会や生産者の注力ぶりが強く感じられた。
モンテプルチャーノ・ダブルッツォにある多様性に目を向けて
何よりメインはワイナリー訪問とキエーティ県ヴァストのパラッツォ・ダヴァロスで行なわれたグランドテイスティング「Vini d’Abruzzo」とワイナリー訪問だ。訪ねたワイナリーは「Jasci & Marchesani」(ヤッシ・エ・マルケザーニ)、「Cantina Marramiero」(カンティーナ マラミエーロ)、「Tenuta Talamonti」(テヌータ タラモンティ)、「Ciavolich」(チャヴォリック)、「Cantine Mucci」(カンティーネ ムッチ)、「Tenuta Secolo IX」(テヌータ セコロ ノーノ)の6カ所に及んだ。赤ワインのモンテプルチャーノや白ワインのトレッビアーノ種に加え、各社が注力するペコリーノ種やロゼのチェラスオーロ・ダブルッツォの試飲を通してアブルッツォワインの多様性に触れる。各社の詳細は別項で後述するが、ひと言でまとめるならば、彼らが共通して語るのが「風」なのだ。アドリア海寄りに位置する「Jasci & Marchesani」や「Cantine Mucci」は温暖な土地に海から吹く風で緩急のある気候が生まれ、「Cantina Marramiero」「Tenuta Talamonti」「Ciavolich」は朝から昼にかけて吹く海の風と、夕方になるとグランサッソから吹き降りてくる山の風の両方の恩恵を受ける。そして標高300メートルに近い丘陵地に位置する「Tenuta Secolo IX」は、美しい酸とエレガントさを醸してほかのモンテプルチヤーノ・ダブルッツォとは一線を画す。
日本では、トラットリアなどでハウスワインとして扱われることも多いアブルッツォのワイン。外れのない、安定して納得のいく、コストパフォーマンスの良いワインとして認識されているわけだ。しかしその内実は異なり、ワイナリーや畑の位置にも大きく左右される、多様性のあるワインだと気づくことができる。
秋の味覚とアブルッツォ
アブルッツィワイン保護協会は現在、日本市場に向けたプロモーション「モンテプルチャーノ・ダブルッツォ・バイ・ザ・グラス・キャンペーン2022」を開催中だ。これはコロナ下でも実施された昨年に続いて行なわれているもので、全国157の店舗でモンテプルチャーノ・ダブルッツォをグラスで楽しむことができるというもの。販売本数や販売方法で優秀店舗が選定され、昨年の最優秀店として評価された「ルミーノカリーノ」(愛媛県新居浜市)と「Triangolo」(大分市)の2店舗は、6月に現地に招待され、アブルッツォのワイン335品が一堂に会したグランドテイスティングの場で協会からの表彰を受けた上、現地メディアからの取材も受けた。両店とも「地方の店を全国的に知っていただく機会として最初から表彰を目指した」と口を揃える。
今年のキャンペーンには21の現地ワイナリーが参加し、39あるモンテプルチャーノ・ダブルッツォから各店それぞれが選んだワインに触れることができる。
このキャンペーンを日本で運営するのは(有)ソロイタリアで、代表の林茂氏はイタリアとのビジネスをスタートさせてから今年で40年を迎えた。アブルッツォとイタリアのワインを見続けてきた林氏は「アブルッツォはイタリアでも最大級の赤ワインの産地。日本で少しずつ知られてはいるが、まだまだ知名度と正しい認知度を高めていきたい」と協会の意図を代弁する。
モンテプルチャーノ・ダブルッツォは原産地呼称に認定されてから2018年に50周年を迎え、さらに大きく世界に出ようとしている。本格的な秋を迎えたこの時期、アブルッツォのワインを視界に求めておきたい。