ニューヨーク州といえば大都会のイメージが強く、ワイン造りが行われていることをご存じない方も多いだろう。しかし近年、非常に質が高く、冷涼気候由来の美しい酸とエレガントな果実感を備えたワインが生まれ、世界的に注目を集めている。サステイナブルな栽培で酸が高くアルコール度数が低いワインは、近年の食の健康志向とも相まってトレンドのスタイル。今年4月、ニューヨークワイン＆グレープ財団が主催し、ニューヨークワインアンバサダーの別府岳則氏を講師にオンラインセミナーを開催。その魅力を紹介した。（text: Yoshimi Ban）
ニューヨークワインの特徴と魅力は？
セミナーではニューヨークワインの魅力と特徴について「冷涼気候由来の高い酸とエレガントな風味、葡萄品種のユニークさ、サステイナビリティへの注力、料理との親和性。また、日本のワインに似ていてアメリカ系品種から始まり、現在はヨーロッパ系品種で成功している点。そして、非常に多くのワインが飲まれる消費地でありワインビジネスとしても成功している」などが伝えられた。
ニューヨーク州には現在、11のAVと444のワイナリー、1631のファミリーヴィンヤードがあり、総栽培面積は約15000ha 。アメリカではカリフォルニア、ワシントン州に続き第3位のワイン生産地だ。そしてニューヨークワインの主要産地が「ロングアイランド」と「フィンガーレイクス」。両方とも海と湖という、水に関係する立地にある。それは水面からの反射光が葡萄を美しく成熟させ、夏は水面から吹き抜ける涼風が高い酸と美しい果実感をもたらすからだという。
ロングアイランドは実力派の観光ワイナリー 湖の周囲に広がるフィンガーレイクス
「ロングアイランド」は大都会のニューヨークシティから車で約2時間。ニューヨーカーが集うリゾート地で世界にも知られる観光の島でもある。中でも南側のハンプトンは高級別荘地として有名で、富裕層や観光客を迎えるワイナリーも多い。とはいえ単なる観光ワイナリーではなく、酸が美しくフレッシュかつストラクチャーもしっかりある、非常に質の高いワインが生み出されている。
「フィンガーレイクス」は内陸のオンタリオ湖の南。ここには、指で削ったような細長い湖がいくつもあり、その周囲に豊かな葡萄畑が広がっている。この湖は水深が深く温度が安定していることから、冬の寒さも和らげ葡萄栽培に最適な環境なのだそう。
30年で急速に躍進したトレンドのワイン産地
ニューヨークワインの歴史は17世紀半ばにオランダからの移民が、マンハッタン島に葡萄を植えたことから始まる。しかし気候が寒すぎてヨーロッパ系品種は育たず、ナイヤガラ、デラウェア、コンコードなどのアメリカ系のヴィティス・ラブルスカ系の葡萄を栽培していた。
ところが、気候の変動や台木の研究などによって、ヨーロッパ系の品種ヴィティス・ヴィニフェラでワイン造りが成功したのが1951年。1985年には、ニューヨーク州のワイナリーをメンバーとする団体 New York Wine & Grape Foundation を設立。2009年にはそのメンバーが200ワイナリーとなり、現在は440を超え倍増。全米第3位の生産量からしても、ニューヨークのワイン産業はここ30年で急速な発展が遂げられているのだ。
注目の葡萄品種はリースリングとカベルネ・フラン
４分の１の畑がサステイナブルな栽培に注力。ニューヨークで成功している葡萄品種は、リースリング、シャルドネ、ピノ・グリ、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・フラン、メルロなどと多彩だが、特に近年、リースリングとカベルネ・フランは秀逸で非常にいい結果が出ているという。
リースリングは酸が豊かで生き生きとしてスタイリッシュ。カベルネ・フランはヨーロピアンな趣があってタンニンが非常に柔らかく質感がなめらか。この二つの品種がまとまって一つの産地で成功しているのは、世界でも珍しくこれもニューヨークワインの大きな特徴だという。
当日の試飲ワイン
Boundary Breaks | Boundary Breaks Cabernet Franc 2020
Hosmer Winery | Chardonnay 2020 (未輸入）
Living Roots Wine & Co. | Finger Lakes Session Red 2019 (未輸入）
Mazza Chautauqua Cellars | Riesling, Nutt Road 2017 (未輸入）
Palmer Vineyards | Pinot Blanc 2019
Wölffer Estate Vineyard | Wölffer Estate Chardonnay 2020
RGNY | Scielo NY Tinto 2019 (未輸入）
